昇仙峡で出会った元シスターとマリア美術館

2020.04.18(9:40) カテゴリ:Exhibition

5/1〜15の間、旭川市のこども冨貴堂ギャラリーKIDSでチャリティ展を開催します。

アクリル画のほか、近年制作したデジタル作品などを展示する予定ですが、それらに加えて久しぶりに刺繍作品も展示しようと思い、少しづつ制作しています。

刺繍作品を作り始めたのは、今から10年以上も前に遡ります。

絵を描くことに行き詰まりを感じて苦しくなっていた私は、気分転換に甲府市の山奥にある昇仙峡に出かけました。マイナスイオンをたっぷり浴びて、気分も一新、気分良く帰ろうと帰りのバスの停留所に行くと、一人の年配の女性がいました。バスの本数は少なく、すぐにはやってきません。停留所のベンチに座る私と年配の女性は、挨拶から始まり、次第に打ち解けて仲良くなりました。

しばらくしてからやってきたバスに乗り込み、その車中でもいろいろお話をしましたが、彼女は神奈川県にある修道院にいた元シスターであることをお話くださいました。甲府駅に近づき、お別れの挨拶をしたところ、「これから私の家に来ませんか?」と誘われました。何と彼女のお住まいは、私と同じ村内であることが判明。とても驚きました。

バスは甲府駅に到着し、彼女のお宅に伺う約束をした私は、一旦帰宅してから彼女のお家に向かいました。私を待っていてくれた彼女は、太巻の詰め合わせを用意してくれていて、太巻きを食べながら楽しい時間を過ごしました。

お腹が満たされたのち、彼女は母屋の裏手にある建物に私を連れて行きました。玄関のガラス戸には「マリア美術館」の文字があり、中に入ると所狭しと日本刺繍による聖母子像の作品が飾られていました。「マリア美術館」は彼女の作った作品を展示している、極私的な私設の美術館だったのです。

私はそれらの作品を拝見すると、頭の中で何かが弾けました。

「そうだ、筆で絵を描くだけでなくてもいいんだ!」

そう思った私は居てもたっても居られなくなって、彼女にご挨拶もそこそこに、すぐに手芸屋さんに向かい材料を買い込み、刺繍の作品を作り始めました。

その後、作った刺繍作品をファイルにまとめて、新潮社装丁室に送ったところ、江國香織さんの文庫本の装画に使用したい、とご依頼をいただきました。

刺繍作品が生まれるキッカケとなった、あの元シスターとマリア美術館はどうなっただろうか、と思い、昨年実家に帰省した際に記憶を辿り、彼女のお宅の付近を探し回ったのですが、どこにも元シスターのお家とその裏手にあったマリア美術館がないのです。影も形もない・・、一体どういうことなのだろうか・・。

10年以上も経っているので、その間に取り壊されてしまっただけなのかも知れませんが、「もしかしたら、マリア様のお告げだったのかも・・」と豊かな想像力を発揮してしまう私もいます。今、振り返ってもあの出会いは謎に満ちています。一体、あの元シスターとマリア美術館は何だったのだろうか・・?

刺繍作品はしばらく作っていなかったのですが、久しぶりに作ってみたくなり、チャリティ展に展示することにしました。

新型コロナウイルスで「展覧会に来てください」とは大変言いづらい状況ではありますが、防護に気をつけたうえでおいでいただけましたら幸いです。

江國香織さんの文庫本の装画に使用された作品はコチラ→  https://mitsui-creative.com/graphixx/works/1844/