『わかな十五歳』制作裏話
2021.05.11(20:00) カテゴリ:Publishing
『わかな十五歳』が出来るまでの制作裏話です。
よろしければご覧ください。
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「この原稿で本を作りたいんだけど」
と、手渡された数枚の書類。
原発事故後に福島県から北海道に移住してきた女性の手記で、私が知らない311当日の福島県の様子が書かれていました。
この数枚の書類から、編集者Nが著者のわかなさんとやり取りをして、少しずつ形になっていく原稿に、次第に私の心も熱くなってきました。
装画を描く段階になり、どういった場面を描くかを編集者Nと話し合った結果、わかなさんが生まれ故郷を離れるシーンを描くことに決まりました。
わかなさんは、目の前に広がる美しい桜の景色と、今この瞬間に起こっている原発事故のむごさの「ちぐはぐ感」について言及されていますが、そのイメージを描きたいと思いました。
桜並木のトンネルに佇む少女は、そのトンネルの先を見つめています。長く暗いトンネルの中でもがき続けたわかなさんは、苦しみの闇の中で生きる希望を手にします。
景色としては美しい桜並木のトンネルですが、現実としてはあまりにちくはぐで、絶望してしまう暗闇のトンネルだったかもしれません。
でも、そんなトンネルの中の少女は、その先にある光の射す「希望」という出口に目を向けています。裏表紙には25歳になった少女の後ろ姿を描きました。
桜並木のトンネルは反転させて、15歳だった少女と25歳になった少女を、長い桜並木のトンネルで向き合わせたイメージで描き、この本の「はじめに」で、25歳になったわかなさんが15歳だったわかなさんに言葉をかける場面を重ねました。
この本は原発事故をテーマにしていますが、原発事故によってあらわになった日本社会の姿を、こどもたちの瞳にどう映ったのかが描かれています。
我々が追い求めてきた幸せとは一体何だったのでしょうか? 我々にとって本当に大切なものとは何でしょうか?
日本社会の「当たり前」によって大人たちには見えなくなってしまった大切なものを、こどもたちの真っ直ぐな瞳は捉えています。
少女の後ろ姿が、あなたに静かに問い掛けます。
あなたはその問い掛けに対して、どのように答えますか?
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