19歳の秋の出来事

2021.08.26(13:10) カテゴリ:Essay

19歳のときは一浪中で、夏休み明けから池袋にあるS美術学院という美術予備校に通っていました。

はじめは普通クラスの下位のグループで勉強していましたが、一ヶ月位でモチーフが観えてきて描けるようになり、下位グループではありながらも上位に評価されるようになりました。

短期間でグングン描けるようになって、すごく楽しかったのですが、高校時代から悩まされ続けた腹部の状態が非常に悪く、恥ずかしいやら辛いやらでなかなか教室に入ることができなくなってしまいました。

お金がある訳でもない両親が学費を工面してくれて上京したもののこんな有様で、グングンと上達して描くのが楽しくて仕方がないのに教室に入れないし、受験は迫って焦るし、両親に対しては申し訳ない気持ちでいっぱいで、悔しいやら情けないやらで美術予備校の周辺に座ってメソメソとよく泣いていました。

秋も深まったある日の夕方、美術予備校の周辺にいた私に女子中学生と思われる一団が近寄ってきて、「お付き合いください」と申し出られたことがありました。

事態が全く飲み込めず、瞬間「からかわれている」と思った私は、憮然としてその場を足早に立ち去りました。

何十年も経って、この出来事を妻に話したら「女の子たちはからかった訳ではないと思うよ」と言います。

多分、毎日メソメソ泣いている私をどこからか見ていて、きっとあの女の子たちは私を「憐んだ」と思っています。「憐み」を「恋愛感情」と錯覚したと思いますが、優しい気持ちの持ち主であることは間違いありません。

結局そのあと私は荷物もまとめて泣く泣く山梨に帰らざるを得ず、その後状態は極度に悪化して入院。辛い期間が続きました。

あの長く辛い期間において、幻のような19歳の秋の出来事。

あの優しい心の持ち主であった女の子たちが、幸せな人生を歩んでいたらいいな、と思わずにはいられません。